●作品についてナルシスのinstagramアカウントに水仙の写真が投稿され、echoがlikeを押している様子が、石で出来たスマートフォンに映し出されている。 ナルコ(麻痺)を意味するギリシャ語を語源に持つ花、ナルシス。SNS上の自分の姿・セルフィーを、現実よりも重視する社会現象は、しばしばこのギリシャ神話に例えられる。心理学者ジークムント・フロイト(1856-1939)は、このナルシスに言及し、自己愛性障害を「ナルシシズム」と呼んだ。今日のソーシャルネットワークの海で私たちは、自分自身に恋焦がれ陶酔するのではなく、巨大な資本主義システムの中のテクノロジーのミラーに映し出される「作られたイメージ」に麻痺している。そして、Likeやシェアの数は、同じくギリシャ神話の“こだま”・エーコー(Echo)なのかもしれない。地中海原産の花・ナルシスは、シルクロードを渡って中国で水仙となり、日本にたどり着いた。頭を垂れ、雪の中でも咲くところが、純粋・健気・祈願の象徴として、闘病や震災復興のシンボルでもある。水仙のイメージは、自己を鑑みるための瞑想へと私たちを誘い、古今東西において、さまざまな神話や逸話が絡まり合って、「無限鏡」の中でリフレクションし続ける。新津の母校である女子美術大学は、女性が美術大学への入学を許可されなかった時代に、女性の自立を目指して設立され、かつて造花科があった。そして校章は自らを鑑みることを教訓とした「八咫鏡」である。2022年、「1900年創立女子美術大学:日本における女子高等美術教育の歴史」展のために制作され、イタリア・ヴェネチアのベンボ宮、Ecc-Italyにて展示された作品。●アーティストプロフィール新津亜土華(にいつ・あどか)。山梨県生まれ。女子美術大学芸術学科卒、IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)第三期生。多摩美術大学情報デザイン学科、女子美術大学メディアアート学科、東京藝術大学先端芸術表現科での助手勤務の後、2007年、微生物に含まれる活性化合物の研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士によって、研究を支えた奥様・文子氏の名を冠して女性芸術家を支援するために設立された大村文子基金『女子美パリ賞』を2007年に受賞し渡仏。パリのアーティストインレジデンス、Cite internationale des arts(国際芸術都市)にて1年間滞在制作。2008年には、文化庁新進海外芸術家派遣制度の海外研究員として、韓国ソウルにて1年間のメディアアート及び素材についての滞在研究を行う。2010年より、パリを拠点に活動。2012年江戸時代に、歌川広重のパトロンだった山梨の豪商・大木家による『大木記念美術作家助成基金』受賞。近年では、パリ国立高等美術学校パレ・デ・ボザール、ベネトン財団Galerie delle Prigioniでの企画展等に参加。起源から現代まで、化石からマイクロチップに至る「イメージの歴史」を掘り下げ、メディアやテクノロジーの影響下にある社会における私たちの行動を探求する作品を発表している。●関連リンク新津亜土華のHP:https://www.adokaniitsu.com/●ANA ART TRANSITANAグループが取り組むアートプロジェクト。詳しくはこちら>>>