●作品について石で出来たスマートフォンに、水仙の花が鏡に映る自分の姿を覗き込む様子が、映し出されている。パリ国立高等美術学校 パレ・デ・ボザールで開催された展覧会「Repliques Japonisme(呼応:ジャポニスム)」のために制作され、浮世絵コレクションとともに展示された作品。江戸の風俗を記録し、西洋美術に影響を与えた浮世絵は、メディアである。その様々な主題の一つに、鏡を覗く美人画があるが、中でも初代国貞によるシリーズ『今風化粧鏡』は、江戸時代の女性の化粧文化が描写され、「仙女香」という当時人気のおしろいの広告まで組み込まれており、現代のスマートフォンを鏡のように使うSNSのセルフィー文化と重なる。持ち手のついた黒い柄鏡(えかがみ)に、化粧をする美人が表示されたまるで画面のような『今風化粧鏡』の構成を、そのまま、スマートフォンの意匠に取り入れた。水仙のイメージは、新津による手作りの水仙の造花を撮影した写真が元になっており、樋口一葉の代表作『たけくらべ』の物語のラストに登場する、 永遠のシンボルとしての「水仙の作り花」からもインスパイアされており、急激な社会変化の中で葛藤する人々、特に困窮する女性の心を詠んだ短命の小説家・樋口一葉(1872-1896)へのオマージュにもなっている。使用された石は、石版画のプリントに使われた石灰石の産地として知られるドイツのゾルンホーフェンにて、新津自身によって収集されたもの。およそ1億4500万年前(ジュラ期)の石層に残された、化石を含む石もまた、地球の生き物の生活を伝える人類以前のメディアといえる。●アーティストプロフィール新津亜土華(にいつ・あどか)。山梨県生まれ。女子美術大学芸術学科卒、IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)第三期生。多摩美術大学情報デザイン学科、女子美術大学メディアアート学科、東京藝術大学先端芸術表現科での助手勤務の後、2007年、微生物に含まれる活性化合物の研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士によって、研究を支えた奥様・文子氏の名を冠して女性芸術家を支援するために設立された大村文子基金『女子美パリ賞』を2007年に受賞し渡仏。パリのアーティストインレジデンス、Cite internationale des arts(国際芸術都市)にて1年間滞在制作。2008年には、文化庁新進海外芸術家派遣制度の海外研究員として、韓国ソウルにて1年間のメディアアート及び素材についての滞在研究を行う。2010年より、パリを拠点に活動。2012年江戸時代に、歌川広重のパトロンだった山梨の豪商・大木家による『大木記念美術作家助成基金』受賞。近年では、パリ国立高等美術学校パレ・デ・ボザール、ベネトン財団Galerie delle Prigioniでの企画展等に参加。起源から現代まで、化石からマイクロチップに至る「イメージの歴史」を掘り下げ、メディアやテクノロジーの影響下にある社会における私たちの行動を探求する作品を発表している。●関連リンク新津亜土華のHP:https://www.adokaniitsu.com/●ANA ART TRANSITANAグループが取り組むアートプロジェクト。詳しくはこちら>>>